[母乳小説]
| 著作/しじゅうななお |
CHAPTER1
昼休みを告げるチャイムが鳴ると、青山ゆうなはわざわざ多目的室棟へと走り出していた。
途中、渡り廊下にある購買部に群がっている男子生徒の視線がパンからゆうなへと変わる。
無理もない、ブラウスの胸の部分だけが異様なまでに隆起して、走る度に激しい揺れこそはないものの、明らかに重量感のある動きを見せている。
「あれって、3年の……」
「ロケットおっぱいちゃんだろ」
男子生徒が口々にそう囁いているが、ゆうなの耳には入って来ない。無視しているのではなく、囁きが入ってくるようなゆとりが今のゆうなには無かった。
階段を駆け上がって、昼休みという時間帯もあり4階の情報処理室と書道室、視聴覚室がある階に人気はない。
自分一人だけではあるが、一応周囲を確認して女子トイレに入って行く。
ドアを閉めて、蓋が下ろしたままの便座に腰を下ろして一息吐く。手にしているナップサックがやけに重く感じた。
すぐ様、ブラウスの胸元のボタンを外してGカップブラのフロントホックを外す。
膝に置いているナップサックを開けて、中から口径の広いペットボトルを取り出す。ペットボトルの先と、右の乳首とを合わせて優しく搾り出した。
思春期の成長と共にゆうなの胸のサイズは肥大するように1年に1カップずつ大きくなって、高校3年の今では98センチのGカップ。4年前のまだ83センチCカップだったと友達に話しても信じてもらえない程だ。
それ以上に問題なのは今、自分がこうしている行為。生理前緊張症で乳房痛があると聞いた事はあるが、ゆうなの場合、最近は痛みの代わりに母乳が出るようになり生理期間中になれば母乳の量が増えるだけでなく、胸の感度も敏感になって下着に当たっているだけで反応し、じわりと出てしまう。
この事が周りに知られてしまう事が嫌で、母乳パットも近所のドラックストアではなく、人目を避けるようにして3駅も離れた場所にある、デパートの医薬品コーナーから買っている。
「なんで私だけなんだろ……」
妊娠も出産の経験も無いのに母乳が出るなんて──、その言葉を代弁するようにゆうなはそう呟いていた。
ペットボトルの中身はすでに四分の一が半透明の乳白色の液体で埋めつくされている。産後の母親程の量ではないが、自分の体から排出された液体を見る度にゆうなは憂鬱になる。
早く済ませてしまおう──。そう考えていると、不意に目の前から空気の流れを感じて、ゆうなはドアが開いてしまっていることに気付いた。あまりにも慌てていたため、鍵をかけ忘れ内開きのドアの側面が自分の方を向いてしまっている。
胸元から顔を上げて正面へと向けた時、ゆうなの目の前には有り得ない光景が存在した。
女子トイレに男子生徒が一人、立っている。
一瞬、動揺してドアを閉めるタイミングをゆうなは失っていた。男子生徒が滑り込むようにして入ってきてドアを閉め、スライド式の鍵を掛けた。
男子生徒は何をするわけでもなく、便座に腰を降ろすゆうなを見つめている。ゆうなは何かをされるのではないかという恐怖心よりも、自分が今、行っている行為の羞恥心で声を上げる事が出来なかった。視線を合わせる事が出来ず宙を泳いでいる。
「声、上げないの」
こうゆう状況に置かれたら声を出すのは当たり前だろと言う口調で、男子生徒はそう言いながら、腕組をしてドアに背を預けた。
宙を泳がせていたゆうなの視線が、辛うじて男子生徒のYシャツの胸ポケットに光る校章入りの名札に辿り着く。
『3―F・湊』同じクラスだ。しかし、男子生徒そのものを余り気にかけていない為、ゆうなには目の前に立つ、湊というクラスメイトに印象が無い。
「ここ、女子トイレよ」
辛うじてそれだけ言うと、ゆうなはやっと、湊と顔を合わす事が出来た。湊の表情は目の前で起きている事に対して冷静なままだ。
「別に間違った訳じゃないよ」
湊はそう言ってかすかに笑みをこぼす。視線は一見、ゆうなの顔を見ているようだが、露になっている胸に向けられていた。
「あまり時間ないな……」
腕時計を一瞥してわざとらしく湊がそう呟くと、顔をゆうなの乳房へと近付け、先程まで搾り出し、母乳が先端に残る右乳へと唇を合わせた。ゆうなの両腕は反射的に跳ね上がり強張らせている。
「う……」
湊の唇が明らかに母乳を吸い出す動きを見せると共に、ゆうなはかすかに息を漏らした。
(お願い、やめて)
湊の口の中に母乳が吸い込まれていくという違和感に、ゆうなは抵抗を感じて言いたい言葉があるが、声を失ってしまったかのようでその言葉が出なかった。
「ふぅ……」
喉を鳴らしながら母乳を飲んでいた湊が一息置いて、ゆうなの乳首から唇を放した。その場から視線を上げてゆうなの顔色を伺う。頬を朱に染めてはいたが表情には戸惑いからくる緊張感が抜けてはいない。
「恥ずかしい?」
右手でゆうなの左乳首を弄びながら、分かり切っていることを湊は訊いてくる。ゆうなは頷く事も、声も出す事もまだ出来ない。
「なんか言ってくれないと、俺だって困るんだよね」
極々自然に湊がそう言い放つ。弄んでいたゆうなの左乳首から母乳が溢れ出す。もったいないといわんばかりに港は左乳首へと唇を合わせて吸い出した。
「あっ」
思わずゆうなは声を挙げて、身をかすかによじらせた。右手に母乳が入っているペットボトルを握ったまま、床に落とさぬように力を込めるだけで精いっぱい。湊がそれを察して左手で探るように掴んで床へと置いた。
湊が左の乳房をかすかに持ち上げてさらに吸い出すと、ゆうなは湊の頭を押さえるようにして身を縮めた。
「お願い湊くん、もうやめて。誰か来たら」
「来ないから使ってんだろ。いつも」
焦り、囁き訴えたゆうなに湊はすぐに返事を返した。その答えにゆうなは顔面蒼白と化した。搾乳をする時は必ず、人目に付きにくいトイレを利用している。両方の乳房から搾乳するにはおよそ10分の時間が必要で、教室練のトイレでも出来ない事はないが、トイレの中に長居をしていると変な噂を発てられてしまうのでは?という危機感から、いつも多目的室練のトイレがゆうなの指定場所なのだ。
「ごちそう様」
湊はそう言ってゆうなの胸元から顔を離すと、またドアに背を預けた。ゆうなはブラのホックを再度掛け、ブラウスのボタンを留めると、もうすでに露骨に見られてしまっている胸を両腕で隠した。今更隠すなよと言わんばかりに湊は嘲笑う。
「お願い、この事。誰にも言わないで」
ゆうなは血の気が失せた脅えの表情のまま、湊と視線を合わすことなく訴えた。
「普通、逆でしょ。誰にも言うなよって」
その言動に、一切の罪悪感が無いことがゆうなを不安にさせる。前々から自分の身体の秘密を湊は知っているかのようだ。
「そろそろ戻らないと購買のパン、売り切れちゃうから行くわ」
湊はそう言って、ドアの鍵を解き隙間を開けて一応は外の様子を確認する。誰もいない。
「青山さんもそろそろ戻った方がいいよ。お昼ご飯、食べそびれちゃうしね」
先程までの行いに何の違和感も抱いていないのか、湊は極々自然にクラスメイトのゆうなに声を掛けると、個室から出ていった。
湊が行った行為と取り残された孤独感が、しばらくゆうなを呆然とさせていたが、湊の言葉を思い出して腕時計に目を向けた。
昼休みを半分過ぎている。
ゆうなは便座の横に置かれたペットボトルを掴んで立ち上がり、蓋を跳ね上げると、中身を流し捨てた。
生理期間中、その前後を含めて何回も行っている事が、今日だけは凄く虚しいモノに変わっていた。
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