[母乳小説]
| 著作/松谷徳盛 |
第一話・『勧誘されて・・・』
| 『勧誘されて…』 「すみません、ちょっといいですか?」 声をかけられたのは公民館のクーラーの効いたエントランスをくぐり真夏の生暖かい空気に包まれてすぐの時だった。 「はい?」 朱美は声の方を向くと首からカメラを提げた青年が、軽いお辞儀まじりに頭に手をやっておずおずと近づいてきた。 (ナンパかしら…?) 黒い髪にはっきりした眉の下におとなしそうな瞳。 風貌は二十代前半。 中肉中背の体躯をデニムシャツとコットンパンツで包み、たすきがけのカバンを後ろ腰にまわしている。 胸の下で揺れる高価そうなカメラをおさえる左手には銀フレームの時計が涼しげな光を放っていた。 朱美は悟られぬように相手の雰囲気をさりげなく見取ると改めて男を見つめなおした。 (身なりはキチッとしているし、変な人じゃないみたいね) 朱美の元スチュワーデスの勘がそう告げると同時にかつての接客でならした癖がでた。 目元は相手に角が立たない程度に見据え気味に、かといって相手を萎縮させないよう口元は引き締めず心持ち柔らかに。 制服を来ていた頃と寸分違わぬこの表情で言葉を待つと相手はどういった用件であれ事務的にならざる得ない。 予想通り男は何か言い出そうとした口をつぐみ、おずおずと傍にあった公民館の掲示板に張られた張り紙を指差した。 「こちらの教室に参加されている方ですよね?」 "ヨガ教室" 指をさした掲示物のなかで青い台紙に丸字のゴシック体で大きく書かれた張り紙があった。 つい今しがた練習を終えたばかりのヨガ教室の生徒募集のポスターだ。 「ええ、そうですけど」 「ああ、やっぱり。どうりで健康的にスタイルがいい人だと思った」 男は呟くように声を上げて笑みを浮かべると懐から名刺を差し出した。 「自分はフリーのカメラマンなんですけど」 後々になってつき返すわけにもいかないので朱美は名刺を受け取らずに男の手を覗き込む。 透明感のあるエメラルドブルーに白抜きの文字で"くらせ まさひさ"と氏名が書かれている。 前職業柄、いろいろと名刺を頂戴していたので、ひと目でそれがコストのかかったものと分かった。 あえて氏名が平がななのはひと目で名前を覚えてもらおうという業界にありがちな工夫だろう。 「何か用でしょうか?」 朱美は名刺から倉瀬を見上げると彼は子供を連想させる人懐っこい笑みを浮かべた。 「実はモデルを探してるんです。もちろん、いかがわしい者ではないので…」 そういうと倉瀬はカバンからクリアファイルにおさめた雑誌の切抜きやカラーコピーの紙片を引っ張り出すと朱美にさし出した。 気のせいか倉瀬の顔からは先ほどまでの緊張が消え、どことなく無邪気に夏休みの課題を自慢する子供っぽさを感じさせた。 そのせいか既に左手をふさいだ名刺と空いた片手でファイルまで持たせるのも気まずく、朱美はそっと薬指のリングをはめた手でファイルを受け取った。 記事の内容はサマードレスの特集で、南国の浜辺やヒマワリなど一目見て夏とわかる背景の前でモデルが笑みを浮かべてドレスのすそをいたずらっぽくひるがえしている。 線の美しい白い手足を伸ばすモデル。上品なデザインのシルクに健康的な小麦色の肌を包むモデル。 白い八重歯を見せて笑う口元は女性を代表したような自信に満ちているようにさえ見える。 「こういう雑誌関係で秋口の洋服のモデルの肩を探しているんです。最近の広告ではですね、」 せっかく捕まえたモデル候補を逃すまいと懸命に説明する倉瀬に朱美は計らずも心のどこかをくすぐられているように感じた。 カメラマンという肩書きを目にした時点でモデルの依頼は予想していたが、こうして熱心に自分に興味を抱かせようとする若いカメラマンを見つめているうちに朱美は久しく忘れていた"笑み"を浮かべようとする唇を引き締めた。 その"笑み"は今、倉瀬の小さな爪のついた指がさすモデルと同じもの。 かつては自分も振りまいていた若い女性を謳歌する笑みだった。 (なんだか懐かしいな) 今の自分と照らし合わせようとする自分から目をそらす様に朱美は倉瀬の話に相槌をうった。 「あの…」 自分の関連した仕事や会社の話をひとしきりすると、倉瀬が顔上げて自分の瞳を覗き込んだ。 「外じゃ暑いですし、もしお時間があるなら近くの喫茶店なんかでお話させて頂けませんか?」 ―10分後 朱美は近くのカフェで倉瀬とテーブルを挟んでいた。 「あの、本当にケーキとかいいんですか?お昼も過ぎてるし、なんでしたらランチとかもとります?」 「いえ、太ってしまうのでお気遣いなく」 今しがた注文したアイスコーヒーがテーブルに運ばれてきたところ、メニューを勧めてくる倉瀬に朱美は苦笑して遠慮する。 夫以外の男性にこうして、ちやほやされるのは久しぶりだった。 相手を不安にさせまいと倉瀬の懇切丁寧なモデルの仕事の話も心地よかった。 そのせいかコーヒーが運ばれてくるまで倉瀬の説明を聞き入っているうちに朱美は独身時代を思い出していた。 (モデルなんて6年ぶりかしら) 自慢ではないがモデルの経験は初めてではない。 結婚前は自前の整ったスタイルと端麗な容姿を活かしてアルバイトで何度か経験していたし、こうして今も声をかけられる事くらい不思議じゃないと自分では密かに自負していた。 多分、結婚前ならにべなく断っていたかもしれない。 そんな風に思いながらも朱美は、そのささやかな女としての自信も今年28を迎えたころからいよいよ、かげりを帯びて来たように感じていた。 結婚して間もないころは男性から声をかけられることもよくあったし、今だ世界を飛び回る現役のスチュワーデスの友人を介して若い男と食事を一緒にすることもあった。 しかし月日を重ねるにつれて同僚たちとの外出も減り、家庭に落ち着ききった今となってはその自信にかげりを帯びても自然なことなのかもしれない。 特に愛娘を出産してからは育児に追われ、街を一人で歩く事が少なくなった。そんな今の自分はかつての自分と明らかな隔たりを感じさせるのだ。 今の生活に不満はないが、悪く言ってしまえば育児に追われた生活は明らかに美貌を蝕んでいた。 そんな折、倉瀬のモデルのスカウトは主婦になりながらも、ささやかに抱き続けた誇りがまだ損なわれていない事を実証してくれているようだった。 (お話だけなら聞いてもいいかな) 一通り話を終えると倉瀬は改めてテーブルから体をもちあげた。 「どうでしょうか?決して難しいことはないので未経験の方でも簡単にできますよ。それに」 そういうと倉瀬はテーブルの上の朱美の左手を視線を落とし続ける。 「モデルとして登録して頂くだけでも結構です。空いてる時間を利用できるのでご家庭の時間をキープしながらお仕事も調整する事も可能です」 熱心な倉木の物言いは話の途中でつっかえることもまちまちあったが、聞いていて朱美は一貫した熱意を感じれた。テーブルに広げられた彼の写真も専門的なことはわからないがモデルの女性は実に楽しげだ。 女性とスマートにつきあえるキャラではないが裏表のない誠実な人柄を感じれた。 それに説明にあった一回の撮影料5万円も魅力的だった。 「ありがとう。でも、私みたいなオバさんじゃなくて、もっと若くていい娘が他にもいるんじゃない?」 朱美はつい思ってもいないことを口に出してみた。 それは後で自分が傷つかないようにというのもあったが、倉瀬は予想通り、停泊していた船がオールを前回に漕ぎ出すように一生懸命にフォローするのだ。 「そんな事ないです!あ、あの朱美さんはとっても美人ですし、スタイルいいじゃないですか。お顔も小さいですし、首も細い。指輪をしてなければとても人妻とは思えませんよ」 それも朱美がもっとも褒めて欲しいところを心得ているように。 「それに…、あっ…」 自尊心くすぐる倉瀬の言葉が途切れたかと思うと自分の胸に倉瀬の目が留まったのが分かった。 視線を胸元に追うとシャツにうっすらと丸いしみが浮かび上がっていた。 「あ…」 つられて小さく菜声を上げると朱美は思わず腰をあげかけた。 (いけない、おっぱいが漏れてきちゃった…!) 軽く舌打ちしたい気分にかられながらも、朱美は耳まで熱くなるのを感じた。 今まで倉瀬との会話でつい若い頃に思い浸っていた自分が一気に子育てで体が変わり果てた主婦である事を思い知らされた瞬間であった。 倉瀬はというとドギマギした様子でこちらを見ている。 「ごめんなさい、オッパイが漏れてきちゃったの…」 シャツの上から胸を押さえるようにして朱美は体をかがめると小さくつぶやいた。 手の中でじゅんじゅんと濡れが広がっていくのが分かる。 「あの、その、どうしましょう…?何か拭くものでも持ってきましょうか?」 狼狽している倉瀬の視線を逃れるようして朱美は回りを見まわすと、ちょうど良く手洗いのプレートが目に付いた。 「ちょっと、オッパイを搾ってきますから失礼します」 ("搾る"だなんてまるで、私ったら動物みたい…) バックを片手に腰を上げると朱美はそそくさと席を離れようとした。そして思い出したかのように付け加える。 「ごめんなさい、多分、時間がかかると思うので今日はここで失礼させてくださいね。もし機会があったら連絡をするという事で…」 「あ、はい、わかりました…あの本当によければで良いんで連絡くださいね」 押される様にして言葉を吐く倉瀬との挨拶もそこそこに朱美は手洗いへ向かった。 一秒でも早くこの痴態から抜け出たかったのだ。 トイレは男性と女性専用の個室がそれぞれ設けられていた。 誰も入っていないのを幸いに朱美は個室に滑り込むと、すでに胸元の布地一面を濡らすシャツを引っ張った。 左胸の漏れにつられてか、右胸も漏れ始め左右非対称の歪な丸い染みが広がり引っ付き始めていた。 ため息と一緒にシャツのすそに手をかけて捲り上げるとカップから露出した谷間に冷たい感触が広がった。 ヨガにあわせてつけてきた濃紺のスポーツブラは通気性のいいメッシュ地だったのが仇となり漏れ放題になっていた。 練習の時だけはずしていたパットも、つい入れ忘れたままだった事を朱美は悔やむと早速、カップをめくり上げる。 ブラのカップを押し上げると、今や色だけが取り柄となってしまったピンク色の乳首が白いしずくを滴らせて姿を現した。 スポーツブラのサポート力に開放された乳房が朱美の胸元にゆさりと重量を感じさせた。 外気にさらされた乳房を触るとまるで体とは別のものと思うほど硬く張っている。 身をかがめて様式の便座へ狙いを定めると朱美は脇にそっと手を添えて根元からこねるようにマッサージを始めた。 それにあわせて瓜のよう実った乳頭が大げさに揺れて、便座から外れて床のタイルを白い雫で塗らす。 「ああん、もう」 舌うちをして片方の乳房を両手で添えると再び根元をほぐしこんでいく。 いつもこうして周りを汚してしまい後でトイレットペーパーで拭くのだが、これが骨の折れる作業だったりするのだ。 丹念に乳房をほぐし、やがて大きく広がった乳輪に指をかける頃には狭い室内は甘いむっとした香りが立ち込めていた。 乳輪から乳頭の根元を一気にしごくように摘むと、開きかけていた乳腺から一気に乳汁が飛び散った。 ようやくコリがほぐれはじめ、搾乳の手を許し始めた乳房を抱え込みながら朱美は右の乳房から、いつものように搾り始める。 かつては男を魅了した自慢のバストは今は娘を育てるために必要以上のミルクをサイズ以上に溜め、漏れ出して自分の手を煩わせる。 飛び散る乳飛まつをぼんやりと見つめながら、心なしか今の自分の搾乳行為を戒めのようにふと感じた。 もはやこんな痴態の後にモデルの仕事を受けるなんて考えは浮かばなかったが、この折悪いタイミングでの母乳漏れはきっと自分に下った罰なのかもしれないと自然に思ったのだ。 倉瀬との会話で芽生えた独身女の感覚のせいで心のどこかに母性に歪められた体を疎ましく思っていた自分が確かにいた。 「もう、やっぱり私にモデルなんて無理なのね…」 朱美は右胸を搾りながら、すでに左胸から釣られるように白い筋を垂らし腕にまで滴っている母乳を見てつぶやいた。 その言葉は母性の戒めを省みるよりも、乳を垂れる体をこれ以上、男の目にさらしたくないという、かつての女としてのプライドが吐かせたものだった。 |
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